リンちゃんの家には、毎年サンタさんがやってきます。
そしてリンちゃんの手紙をサンタさんに渡し、約束するのはお父さんの役目です。
一昨年はゲーム、昨年はローラーシューズ。思い通りの品物をもらっているリンちゃんの
今年のお願いは、なんと「豆柴」。あまり大きくならない柴犬だそうです。
戌年でもないのに、どうしても犬が欲しいリンちゃんは、お父さんと一緒に、
インターネットでいろいろ調べてみました。どの犬も最低10万円くらいします。
青ざめるお父さんに対して、リンちゃんはかわいい豆柴の写真を見て盛り上がりました。
「絶対サンタさんにお願いして、一生懸命世話する」
と言っています。
でも、お父さんにとっては、お金はもちろんのこと、
豆柴に限らず室内で犬を飼うなどということ自体、考えられないことなのです。
インターネットの画面を見ながらフリーズしてしまったお父さんに、リンちゃんはさらに言いました。
「お父さん、犬小屋作れるん?」
「う〜ん。材料とかがきちんとあればね。でも、難しいなあ」
もしかしたら犬小屋がないという理由であきらめてくれるかもしれません。
お父さんは少しだけ顔がほころびました。でも、リンちゃんはこう続けたのです。
「じゃあ、犬小屋もサンタさんにお願いしといてあげるね!お父さん、手紙渡して、約束しといてよ」
と、うれしそうにサンタさんにお願いの手紙を書いているリンちゃんを尻目に、
お父さんはどんどん血の気が引いていくのを感じました。
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イブは刻一刻と近づいていきます。
「デジカメしか、いらん」とか、
「音楽をダウンロードできるウォークマン」などと戯言を抜かす、
おっきい姉ちゃんやまん中の姉ちゃんの意見は無視できても、リンちゃんは
サンタさんにお願いしているのだから、それをお父さんが無視することはできません。
「犬がいたら旅行にも行けなくなるけどいいの?」
「お父さんが家の中には、入れんって言ってるから、寒い中、外にいさせるけど
かわいそうじゃない?」
「去年、戌年は終わったから、サンタさんも犬は持ってないかもしれんよ」
お母さんはいろんな事を言って説得しています。
素直なリンちゃんは
「じゃあ、他の生き物でもいいか」
と渋々納得しつつある様子。
二人の話を聞きながら、横から口出しするお父さんは、
「おう!めだかにせえ!めだかが、ええぞ!生物室にもおるぞ!!」
と喜んで声を張り上げました。
するとリンちゃんは、寝転がって新聞を読んでいたお父さんを、黙って踏みつけたのでした。